小さい人が乗れるオールロードをまずつくろう、そんな話から始まった新しい開発。
試作品の完成構想は、一部必要なところはTig溶接も取り入れるけど、造形的に美しいラグフレームを使いつつ、タイヤボリューム(28-35cくらい?)があるのでディスクブレーキを付けた仕様にしたい。
自分でも乗りたくて、要望もよくある小さいサイズのホリゾンタルフレームにしてみたらどうか、、、というところ。700cのホイールでは設計上、小さい人のためのホリゾンタルフレームは難しいので、650Bでの設計を検討。小さい体格の人には少し小さいホイール径のシルエットもよく合うはずです。
CADで詳細の図面を引く前に、簡単なスケッチ(手書きとかBIKE CAD Proとかを使いつつ…)を書き始め、
色々と話しているうちに、まず試作してみようかとなったのはフロントフォーク。
フロントフォークも既製品を使わず、思った乗り味やシルエットを実現するためフレームとセットで設計します。
70年代に2代目の片岡保氏こだわりの400R(”R”とは円の半径(曲線半径)のことで400Rは半径400mm)の曲がりは、見た目も美しいし、今回の目的の乗り味にもいいんじゃないか。ということ。
というのも、当時の話を少しすると、、、
60年代から製作していたツーリング車(ランドナー)は地道だったので、悪路を走ってもショック吸収をするため先曲げフォークを使用していました。先曲げとは言葉通りフォークの先だけ曲げているような形状で、オフセット量を多くとっています。
▲ちょうど先日整備させていただいた70年代はじめごろのランドナーのフォークがそのような形状です。先曲げの形状とオフセット量で、直進性のいい設計にしていました(運搬車のようなイメージ)
少し時代が進み、1970年代半ば頃から日本のフィールドは地道から舗装路になりました。
当時のヨーロッパのような石畳や路面の荒れたアスファルトより、私たちの走る場所は路面状況が良くなったためショック吸収の必要性が少なくなりました。そのため、ビゴーレではロードバイクには400Rのフォーク(先曲げはなく、フォーク全体が400Rで曲がっている形状)をつくるようになりました。より伝達率が良く、剛性感もありつつクセのないハンドリングになるのでちょうど良かったのです。
▲1978年に大阪国際見本市で参加した際の写真。フォークを見ていただくと先曲げのない形状です。これがちょうど400Rのもの。ちなみに、写っているのが片岡保氏、奥にいるのが3代目の片岡聖登です。
話が戻り、今回のディスクブレーキも付属するオールロードには、見た目も美しいし、剛性感もありつつ、ハンドリングも癖がないでちょうどいい、となったのです。
すぐにパイプの曲げの試作をしたいところでしたが、400Rちょうどの大きさのベンダー(パイプを曲げる道具)が今はありません。とりあえず、試作用のベンダーをつくることからはじまりました。
鉄板を加工してベンダーをつくるなど色々考えていたのですが、目に入ったのは1990年前後からビゴーレにあった複合R(通常のRの曲げ+先曲げの形状)のベンダー治具。この形状のベンダーは以前はマウンテンバイクやロードバイク製作時など、色々と使っていたのですが30年程度?使っていなかったので加工して400Rにしました。工房の中の機械や道具を色々と駆使してなんとか完成。
パイプを曲げてみると、1回で良い感じの曲がりに。
私(片岡有紀)としては何度か調整が必要?と思っていたのですが、片岡聖登からすると想定通りにできたので”普通のこと”とのこと。
パイプは綺麗に曲がったところで、エンドのアタッチメント治具(エンド部分を固定するもの)を自作で作成。アメリカのCobra治具(下に写真があります)と組み合わせて使用することに。Cobra治具は、使い勝手もありますが、何より見た目も美しく作業のモチベーションが上がるので気に入って使っています。ものをつくるときの道具って大切ですよね。
治具作りと同時に、今回使用しようと思っている、フォークエンドやクラウンを図面をCADに書き起こし、フォーク全体の詳細設計を行いました。デジタルとアナログを行ったり来たりしながら製作。CAD図面を描いて、製作したものを1:1で印刷して現物合わせしながら、またCAD図面を修正したり。。。
▲エンド部分やパイプをそれぞれ図面に起こし、詳細の設計を決めていきます
▲現物を確かめ再度スケッチしているところ、ここからさらにCAD図面へ反映します
ついに図面が完成。図面に合わせてパイプもカットし、溶接に向けて治具に取り付けます。
▲原寸大の図面と、Cobra&自作治具に取り付けたところ
溶接は、場所によってTig溶接とロウ付の2種類で行いました。
▲エンド部分のTig溶接は私(4代目 見習い 片岡有紀)が。アーク溶接の一種です。
▲ロウ付の部分は片岡聖登が。(この時は夢中で気付きませんでしたが、後で写真を見ると素手でした…)フォーククラウン部分はラグを用います。
そうして完成したフロントフォーク。
1970年代当時のビゴーレも知るオーナーさまに見せると、”私の好きな曲がり具合”と一言も。
12mmスルーアクスル、ディスクブレーキ仕様で、ビゴーレ伝統の400Rが現代解釈されたフォークです。
さて、今回はフォークの製作シーンをご紹介させていただきました。本当はフレーム製作に向けた治具製作もお話ししようと思っていた(フレームもフォーク同様既成の治具がなく、治具作りからやってました)のですが、思ったよりフォークについての話が長くなったので、他の機会にご紹介させていただきます。
フレームビルダーって目立ちやすい“溶接”が注目されがちですが、実はその他の要素もとても重要です。こうして振り返ると、設計や治具を考え形にすること、そしてデザインの思案の方が実はかけている時間が長いなぁ、と改めて感じました。
次回の更新は1月に入ってからです。