こんにちは、フレームビルダー(見習い)の片岡有紀です。「オールロード開発物語」、2025年初めての投稿です。今回で第3話。

 

本当は1月最初の月曜日に投稿しよう!と思っていたのですが、数年ぶりに熱を出してダウンしてしまい間に合いませんでした…幸いコロナでもインフルエンザでもなかったのでよかったです。皆様、まだまだ寒い日が続きますので、ご自愛くださいませ。

 

さて、前回は「400Rのフォーク」でしたが、次はフレームの設計。

 

オールロードで少し太めのタイヤを想定しており、ディスクブレーキ+UDH+美しさ、の設計要素を考えながら、乗り味はレーサー感のあるハンドリングの「70next」をベースに、オールロード寄りに進化させるというイメージ。

※UDH(ユニバーサルディレイラーハンガー)の詳細についてはこちら

最初は、以前お話ししたように身長150cm程度でも乗れる小さいサイズなのでホイール径を小さく、650Bの専用設計です。650Bだと、クロモリの美しさが際立つホリゾンタル(トップチューブと地面が並行)も可能だろうという見立てです。

 

実はフレームビルダー 片岡聖登は、1992年頃からタイヤ径が小さい650Cを採用したロードバイクを100台以上製作の経験がありました。

 

少し当時の話をすると、90年代は片岡聖登は自らもトライアスロン(アイアンマンレース)の競技者として活動しながら、自転車の開発をしていました。(当時トライアスロンが盛んだったハワイでの一つのトレンドに、小さい径のホイールの650Cを採用し車体をコンパクトにすることで、空気抵抗をなくすというものがあったそうです。)

 

80年代に小さい方や小柄な女性向けとして、ホイール径が小さい650Cを採用したロードバイクを製作をしていたこともあり、試行錯誤をしながらトライアスロン用650C採用の設計を行なっていました。自らのも使ってみるともちろんコンパクトで空気抵抗が少ないというのもありますが、小さい人がいいポジションを作るのにもちょうど良かったそう。

 

※650Bと650C:マウンテンバイクや一部のグラベルロードに使われている27.5インチを「650B」、ロードバイクの26インチのことを「650C」と呼びます。

 

1995年

▲当時の写真(650cサイズのホイールをはいたVIGOREのトライアスロンバイク)

 

話はオールロードに戻りますが、当時の設計の試行錯誤の経験があったので、今回はそれをベースにアレンジしていくとうまく行くと確信していたそうです。(過去に試行錯誤をして完成したものを、さらに現代解釈していくというのは、ビゴーレの進化の形ですね)

 

まずは、フォーク製作の前に作っていた、BIKE CAD Proで製作したラフのフレームのスケッチから、CAD図で詳細図面を引いていきます。

 

片岡聖登から当時の設計の工夫の詳細や今回の設計のイメージを聞きながら、(以前製作したものをベースにして)私がスケッチと詳細のCAD図を引く。一度形が見えてきたらまた修正を繰り返す、そんな作業でした。

 

以前製作したものをベースにといえど、今回は新しい要素もあります。

 

まず1つはリアエンド部分にUDHの採用。パーツメーカー規定の角度に合うように配置を確認、調整していきます。

 

▲エンド部(UDH)の部分。位置の詳細確認と、ディスクブレーキとシートステーが干渉しないかの確認も。(寸法は消しています)

 

 

ディスクブレーキはロード系のパーツをアッセンブルするのでフラットマウントを採用。

リアのディスクブレーキ台座については、板に台座が2個ついている(リアエンドとディスクブレーキ台座が一体の)タイプのパーツもあるのですが、パッと見た時にできるだけシンプルで美しいシルエットにするため、(前述の一体タイプは採用せず)今回はフレームをザグって台座を(パイプに直接)2つ溶接するタイプにすることに。その微細な位置も調整しました。

 

▲左側が一体型の台座、右側がパイプをザグってつけるタイプの台座

▲チェーンステー エンド付近をを上から見た図面(緑の2個のマルがリアディスクブレーキキャリパーの台座)

 

次に、35B程度のタイヤの太さまで対応できるよう、チェーンステイの確認も必要です。タイヤとチェーンステイ、クランクが当たらないように物理的な”避け”も確認が必要ですが、見た目も極限まで美しくしたい。できるだけパイプを曲げずに、まっすぐなもので、どこにも干渉しないという設計を目指しました。

 

今回も、ビゴーレの自転車に共通する”機能的で美しい”というデザインコンセプトですね。機能を研ぎ澄まし、不要な箇所を削ぎ落としていくことで、結果として美しいシルエットが生まれます。片岡聖登も「パッとみていいな、綺麗。って思ったものは、自転車に限らず絶対性能も抜群。」とよく言っています。

 

フォーク製作時と同じく、CADで図面に書いて原寸大で出力して、現物合わせをしていく。また、修正が必要だったらCAD図に反映していく、ということを繰り返しました。

 

▲原寸大で印刷し、パイプや部品の現物合わせを

 

そうして完成した詳細図面。

▲これは、フレーム&フォークの正面図と、チェーンステー部分の図面

 

あとは、「パイプを切って、合わせて溶接するだけ!」と言いたいところでしたが、次にフレーム製作用の治具づくり(治具もプロトです)が必要です。特にディスクブレーキ周りの位置関係を正確に出すための治具を製作する必要がありました。このお話しはまた2週間後に…

 

 

お店に来ていただいた時、SNS、メールなどで、「オールロード開発物語」読んでるよ!とお声がけいただきありがとうございます。大変励みになっております。

 

実は予想外に、試作を京都本店で見て、実際に乗って、オーダーしてくださる方もちらほら。(まだ試作中で、さらに設計の見直しもあり、モデル名や正式な受注開始時期も色々決まっていないのですが…)なんとしても”いいもの”をつくり上げたいと思います。