「オールロード開発物語」、今回で第4話です。第3話までに、フォークの製作、フレームの設計をしていましたが、今回はフレーム製作用の治具づくり。治具とは、フレーム製作の際にパイプの作業を補助するための道具のことです。例えば、パイプを切断するときに保持するための道具や、溶接する際に固定するための道具、パイプに穴を開ける際に位置を誘導するための道具、パイプを凹ませるための道具などがあります。
これまでもフレーム製作時には治具をつくっていましたが、今回新たに必要なものがあります。フラットマウント用リアディスクブレーキ台座を取り付けるため、パイプに台座取り付け用の穴を開ける際にパイプを固定し位置を誘導するための治具と、実際に台座を取り付ける際の位置決め&固定治具です。
3話でもお話ししたように、ディスクブレーキ用台座(2つ)はパイプに穴を開けて直接台座を溶接するタイプを使用します。
(2つの台座が一体型のものもありますが、完成時のシンプルな美しさを出すため)
簡単なイラストですが、このような感じです。
↑少し分かりにくいですが、左のイラストがチェーンステイ部分を横絡みた図、右側が上から見た図で2つの工程があります。
まずは、治具も”試作”として今回は製作していきます。以下2つのための治具です。
実際に使ってみて改善点があれば修正し、特に改善点がなくても見た目をもう少し拘って再度製作するかもしれません。
1)チェーンステイ(パイプ)に、台座取り付け用の穴を正確にあける
2)台座をパイプに仮付する際に精度高く取り付けする
「1)チェーンステイ(パイプ)に、台座取り付け用の穴を正確にあける」
→まずはこれを実現するための治具から。
いつも店舗に顔を出してくださるオーナー様も(いつの間にか)参加しながら治具の案を検討していきました。最終的にしたことは、万能フライスにチェーンステイ(パイプ)を取り付けた治具ごと固定し、パイプに穴を開けられる形状。治具に固定することで、後の機械加工で簡単に精度高く穴をあけることができます。
図面作成から。チェーンステーの図面の上から、治具の図面を引いていきます。
↑チェーンステイ部分を上から見た図面に、治具の図面案を追記しています(ピンク色)
治具材質はアルミで。ビゴーレはダウンヒルバイク(ダブルサスペンション等)を製作していた時代もあったことから、私たちの治具の多くは、慣れて加工しやすいアルミで製作しています。カットや溶接の仮付けの時などは、熱が上がらないためアルミでも問題ないのです。
↑ダウンヒル用のダブルサスペンションバイク。
↑当時はダブルサスペンション用の既製パーツがなかった為、各パーツをデザインし、製作を行なっていました。
今回の治具はいくつかのアルミを組み合わせるため、コンタマシーンという金属を切ることができる機械でカット、そのあとボール盤でボルト用の穴を開けたり、万能フライスのDECKEL FP1で穴あけを行います。フレーム製作でも使用している機械は、治具製作でも使用しているんです。
↑ボール盤で穴を開けているところ。確認のため、原寸大出力した図面をアルミに貼り付けています。
そうして完成した治具がこちら。最終版を製作する時は、治具の性能はもちろん、作る側としてモチベーションの上がるカッコイイ治具に仕上げていく予定です。道具の美しさや格好良さは、自転車関係なく、ものづくりに関わる方にとってはこだわるところの一つではないでしょうか。
↑治具にチェーンステーを取り付けたところ。斜め上から見ている写真です。パイプの角度は既存の治具を使って調整します。この治具ごと、フライス盤に取り付けてパイプの穴を開けます。(ボルトのタップ穴を切る時のオイルでアルミの上に貼っている紙が汚れています…)
↑フライス盤でチェーンステーに穴を開ける時、治具の穴にホールソー(円柱の刃)を通せば、位置がズレることなく穴を開けることができます。
↑穴の部分を上から見るとこんな感じ
実際に治具を使ってパイプに穴を開けているところの写真は?となりますが、
正直にお話しすると治具が機能した嬉しさで写真撮影を忘れてしまいました…また次回開ける際には撮影して追記いたします….
「2)台座をパイプに仮付する際に精度高く取り付けする」
→次にこちら
穴を開けたパイプに、ディスクブレーキ用台座2つを正しい位置で固定するための治具をつくっていきます。
これは、既存の治具(ダミーのスルーアクスル)にアルミ材を組み付けることに。
フレームの図面から各台座の固定位置を確認し、アルミ材にパーツを固定する穴を開けて組み合わせます。写真ではたくさん穴が空いていますが、廃材のアルミ板を使用したため元から開いていた穴です。(逆にカッコイイかも…?と思ったり…)
そして完成したものがこちら。後ろのシャフトをフレームのエンドに取り付けて台座を位置決めする治具です。
↑治具単体の写真
↑このように、他の治具と組み合わせながら、1)で穴を開けたチェーンステーに2つの台座を固定します。固定後、溶接でまずは仮止めをしていきます。
リアのディスクブレーキ台座取り付けのための治具が2つ完成しました。
もちろん、治具がなく手仕上げでも、時間をかければ綺麗に取り付けができないことはないです。
しかし、やはり再現性がないと精度が落ちてしまったり、時間もかかってしまいます。ビゴーレでは、試作段階から治具の検討も併せて行い、機械加工で精度を出せるように、と考えています。
さて、やっと治具が完成したため、次はやっとパイプを切ったり、溶接したり、磨くと言ったフレーム製作の段階です。フレームビルドといっても、設計や治具製作など加工の段階までも結構大切だなぁ、と私も改めて感じています。