何気なく、愛らしいぶたの看板のそばに立てかけられた見慣れぬビゴーレの自転車。
その自転車は、ずいぶんと前に片岡の友人のソーセージ屋さんのマスターからの依頼で作られた一台です。
「配達用の一台をつくってほしいんやけど。」
友人の不意のお願いでした。
片岡とマスターは旧知の仲で、ソーセージ屋を開かれる前は有名な欧風料理レストランを開かれており、ビゴーレの打上でも良くお世話になりました。現在は、レストランのときに評判の良かったソーセージやおいしい食材をメインに販売するお店を立ち上げられ毎日奮闘されています。
「ソーセージ屋」と言っても、フランスで言うところの「シャルキュトリー」という豚肉加工専門店。それを専門的に営んでいるお店は日本では数えるほどしか無く、ソーセージ、ハム、テリーヌからデザートまで毎日作リ続けられています。そんな彼をわたしたちは親しみをこめて「ソーセージ屋さん」と呼んでます。
片岡とマスター、端から見ているとそんなに仲良さそうでも無いのですが、互いに饒舌でもなく、職人気質なところが似ていて、なんとなく、多くを語らずとも通じ合える仲みたいです。
そんなマスターから店用自転車のオーダー、要望はふたつ。
配達用の自転車にしたいので、すこしでも多くの荷物を乗せられること。
そしてリンデンバーム(お店の名前)っぽいこと。
その二言から生まれた自転車が、マスターの手にしている自転車。
職人堅気のマスター。カメラを向けてもすぐさまにこっと言う訳にはいきません。
写真では無愛想ですが、とてもやさしくて、いつもたいへん気遣いしてもらってます。
さてさて、仕上がった自転車は、こんな感じです。
配達用とのことなので、丈夫で取り回しの良いクロモリ製MTBであるBasic FRをベースに、
前輪の荷台はもちろんのこと、リアには、大きなキャリア。これなら豚一頭まるごと配達できるはず。
前輪の荷台はフラットなものを。うさぎでも、鴨でも、ぶたでも、鹿でも、ひもでくくりつけていろんな食材を運ぶことができます。
ただし、しっかり縛りつけてもらわなければ荷物は逃げていってしまいます。
後ろはXTRACYCLEのFreeRadicalという荷台ユニットを取付けました。穫れたての一頭丸ごとでも運べそうなぐらいの容量はあり、荷をのせなくても十分すぎる存在感。
看板がわりにも、との要望もこれならしっかりご希望にそえているのではないでしょうか。
もちろん、配達先でも自転車が立てられるようにスタンド付き。
(※ビゴーレはスポーツ車が主流なのでオーナーはスタンドを付けられないことが多いです。)
そして、フレームには、お店のロゴ。
ただ、ロゴよりも特徴的なのは、自転車のフレームの正面につけられた”ぶたのはな”。
そう、これは、あの看板のぶたくんのはな。これはマスターからのリクエストなんです。
あのぶたくん、だいぶマスターに愛されているようです。おかげで自転車もぶたくんの分身のようになりました。
ぶたは、ドイツでは幸運のシンボル。町でこのぶたくん号とすれ違ったら、いいことあるかもしれません。
そんな元祖?ぶたくんと記念撮影。
その日のマスター、とても忙しかったようですが、やっぱりぶたくん抜きでは語ってはいけないようで、
少々ぶっきらぼうながら「看板ともいっしょに写ろうか?」と自分から。
最愛?のぶたくんとその分身、ぶたくん号と一緒に記念撮影となると自然を顔もゆるみます。
職人堅気でちょっと気難しそうに見えますが、ちゃめっけたっぷりのマスターはやっぱり憎めません。
自転車を定位置に戻すと、忙しいと言いながらもスタッフの方といっしょに自転車をながめておられました。
みなさん、なんとなく、ビゴーレの自転車はながめたくなるみたいです。
そうそう、このお店のためにつくったのは自転車だけではありません。
こんなものもあります。何か分かりますか?
実はこれ、溶接されたパイプの穴に写真のように棒を差し込み、ソーセージを吊るすものだそうです。
ある日、マスターが、「こんなの作れる?」との相談に、片岡が実際の使い方を確認しながら寸法、角度を決めて自転車のフレーム材で作り上げた一品。
自転車同様、道具としてしっかり機能するものをとの思いをここにも込めています。
つりさげられたソーセージはこんな感じ。(マスターのブログ”リンデンバームのキッチンから“より転載)
まじめにモノづくりしている者どうし、ちょっとしたことをお互いに知恵を出して支え合っている関係が端から見ていてうらやましいです。
ついでながら、店内に入るとおいしそうなものばかり。
これまでも食べてはいるものの、その誘惑に負け、買って帰ろうと、マスターにどれがおいしいかと尋ねると、
ぶっきらぼうに「全部。」。
それは、そうです。申し訳ない質問をしてしまいました。
欲張りのわたしは
色々たのしめるソーセージの詰め合わせと
とても美味しそうな、タルトタタンを袋に詰めてもらいました。
私たちの対応を終えると仕込みのためにそそくさと奥の厨房へ戻っていかれるマスターの姿は、
つくるものは違えど、ひたむきに自転車づくりに励む片岡に通じるものがあります。
京都にはまだまだものづくりに思いを込めている人たちがたくさんいることを改めて実感しました。
これからもこの素敵なお店が続くように、少しでもビゴーレの自転車(とソーセージ台)が貢献してくれていることを願ってます。
どうぞ、ぶたくんのご加護がありますように。
京都にお越しの際は、ビゴーレの自転車と併せてマニアックでとてもおいしいソーセージにも会いにきてください。
ソーセージ屋さんもとい、シャルキュトリーのリンデンバームのホームページはこちら→