- 第1話 サイクリングという原点
- 第2話 アイデアを形にする
- 第3 話 よりロードの乗り味を
- 第4話 フィールドに合わせた進化
思考錯誤を続けながら、進化を遂げた「新・山と旅の自転車」。新製品・新技術に固執することではなく、乗りやすいもの、乗って楽しい人に寄り添ったものを突き詰めてきました。
2015年の「新・山と旅の自転車」販売後、アメリカのハンドメイド自転車業界から、ロードプラスという言葉が出てきました。ドロップハンドルでMTB寄りの太いタイヤ(650×47B)が付属する、ツーリングバイクです。
その後、ディスクブレーキなど足回りの規格はまだはっきりと定まってはいませんでしたが、2016年頃のNAHBS(North American Handmade Bicycle Show/ 北米のハンドメイドバイシクルショーです)で互換性のあるパーツが小さなメーカーから出てきたのです。これをみた片岡は、これから2013年の開発開始当時から望んでいたパーツが出てくると確信。
アメリカから”ロードプラス”という言葉が出た後、ヨーロッパから”グラベルロードバイク”という言葉が出ていました。”グラベルロードバイク”はグラベル(未舗装路)も走行可能なロードバイクで、ロードバイクと同様の700Cのホイールに、42-53C程度の太めのタイヤが付属する自転車です。ヨーロッパのフィールドではそういう使い方だったんですね。
世界中、同じ方向性を向きつつも、その土地土地のフィールドに合わせた自転車が出現してきました。やはり、フィールドに合わせてつくるということが、使い手の愉しみを最大限に引き出すのです。
このように、新たなジャンルの自転車が生まれる中、「新・山と旅の自転車」の新たな進化が始まります。
ツーリングに適した27.5インチ(650B)の規格や、ディスクブレーキに適したフラットマウント+スルーアクスルの規格が出現してきたことがきっかけです。片岡自身、2013年ごろから待ちに待った規格でした。
これまでの「山と旅の自転車」の開発の経験や、新たな進化に向けて試作と、様々な条件やタイヤ幅・仕様でのテスト走行を繰り返した中で、この日本のフィールドでは、やはり昔のスポルティーフとランドナーのホイール&タイヤサイズ (700×28-32C または、650×35-42B)が一番楽しめると確信したのです。
↑650×47cのアメリカンサイズでのテスト走行風景
というのも、日本ではグラベル・ロードが生まれた土地のような広大な未舗装路はなかなかありません。林道や山道/登山道のトレイルコースがあり、未舗装路の多くは1970年以降、舗装路に変化しました。
日本の場合、フィールドの大半を舗装路が占めます。口径が大きい(700c)ホイールで太いタイヤになると、大口径による直進性の向上よりも、タイヤ自体の重さや太さで抵抗が増えてしまい、舗装路でのデメリットが勝ってしまいます。また山道の様な未舗装路において、特にドロップハンドルは直線では問題ありませんが、荒れた路面やコーナーでハンドリングがうまくできません。
結果、歴史のあるフランスのランドナーの規格(650×35-42B)がドロップハンドルには1番適しているという結論に至りました。日本のフィールドや乗り手の使い方に合わせられるよう、山道中心の走行を想定した650×42B(推奨:35-42B /54Bが最大)から設計を始め、舗装路中心の走行を想定した700×28-32C(推奨:32C前後 /43Cが最大)との兼用ができる設計の開発を進めました。
↑ディスクブレーキ仕様のプロトタイプ製作風景
プロトタイプの試作は8台。試作しては、京都の林道でのテスト走行を繰り返しました。試作の詳細の様子はコチラからご覧ください。ディスクブレーキ採用に合わせて、フラットマウント+12mmスルーアクスル、新たなブレーキホースの取り回し(内蔵)、タイヤ径幅など、思考錯誤とテストを繰り返しながら設計を決めていきました。
私たちのフィールドを十分に楽しみ、オフロードでの高い走破性や荷物を積んでも操作性が損なわれないことを前提とした設計のため、これまでの「山と旅の自転車」同様にフォークも含めたオールクロモリ製の車体をベースに新しいパーツにも対応するため、肉厚等も再度見直しを行いました。
↑山道でのテスト走行(プロトタイプでのディスクブレーキのテスト(左側)と新・山と旅の自転車(右側)
↑大雪の日のテスト走行(プロトタイプ雪道走行テスト)
↑林道でのテスト走行(山と旅の自転車プラスのテストモデル)
2019年、ついに完成した新しい山と旅の自転車。
進化し続ける意味を込め、この3作目のモデルは「山と旅の自転車プラス」と名づけられました。
「山と旅の自転車プラス」の販売当初は、パーツの選択肢はまだまだ少ない状況でしたが、”グラベル・ロードバイク”や”ロード・プラス”という言葉が世の中で広がり、SHIMANOのGRXシリーズをはじめ、求めていた規格のパーツが各メーカーより出現しました。アメリカを中心にイベントが多く開催され、パーツが成熟していきました。お客様の乗り方に合わせて、さまざまなコンポーネントパーツを選択していただける、今の形になったのです。
2019年の発売から未舗装路に行く方だけでなく、普段の生活の移動の道具〜テントなどの荷物を積んだバイクキャンプのツーリングまで”その時を”楽しんでいただける自転車となりました。
いつでも、どこでも、どこまでも。
全てを一台で楽しめる、旅のためのそして毎日のための
「山と旅の自転車プラス」。
まるで全てが研ぎ澄まされた十得ナイフのように、
どの性能も妥協することなく、全てが満足できる走りで
どんな時間も存分に楽しめるはず。
「あなたの旅がもっと広がります。」
山と旅の自転車誕生物語は、この4話で完結です。
しかし、まだまだ進化は続きます。