1960年代に経験した、速さを競うのではなく街中から裏山や林道を駆け巡りながら、ただその時間を純粋に愉しむ”サイクリング”。その経験ができる自転車を生み出したい。そんな思いで「山と旅の自転車」の開発が始まりました。

 

ビルダーである片岡は、ランドナーやスポルティーフを模倣するのではなく、まず「Basic FR」のをベースにした試作開発を始めます。

 

「Basic FR」といえば、競技車として開発が進み、街中を愉しみ尽くすために進化したマウンテンバイクのクロスカントリーレースモデル。(詳しくは、Basic FR誕生物語をお楽しみください。)裏山も走って愉しむには文句なしの性能でした。

 

実は、「Basic FR」が完成した頃、片岡の頭の中ではドロップハンドル仕様のことも頭にあったとのこと。初代「Basic FR」は1992年の完成ですから、約20年の時を経ての実践です。

↑1990年代、ビゴーレ・レーシングチームのメンバーが「BasicFR」の前身「Super Competation」にドロップハンドルをつけてレースに参加している様子

 

今回の開発にあたりフレームの試作前にイメージをつけるため、「Basic FR」にまずドロップハンドルとSTIレバーをつけて試しました。マウンテンバイクにロードの乗り味を追加して寄せていくイメージです。長年ツーリング車を乗り倒していた片岡は、その経験値から頭の中での乗り味のイメージは完璧でした。

 

少しご紹介すると、26インチの「Basic FR」をベースに、ロードバイクのテイストが。どちらの車種にも分類しきれない仕様に。(詳しくは、VIGORE WORLDをご覧ください。)

 

当時は、27.5(650B)インチの仕様では、マウンテンバイク競技に特化したものしか存在しておらず、今回の「旅」というコンセプトに合う、丁度いいホイールやタイヤがありませんでした。そのため、26インチを選択することになりました。ディスクブレーキについては、思うスペックが存在しておらず、今回の採用はしませんでした。

 

↑「Basic FR」にドロップハンドルを取り付けているところ

 

↑STIレバーを使用するためブレーキはカンチ式に

 

ビゴーレの自転車づくりで大切にしていることの1つは、自分達が愉しめる自転車であることです。完成したら、早速試乗しました。まずはビルダーの片岡が乗ってみると「やっぱりよく進む自転車」でした。さらに、ビゴーレのチーフメカニックの林も加わり、舗装路だけでなく林道でのテスト走行も行いました。

 

舗装路での試乗テストは、思った以上にスムーズに走りました。ハンドルが変わったのでポジションが普段と異なっているだけでなく、ロード用のパーツ類が効果的に働き、オンロードにも適した乗り味になりました。

 

↑舗装路でのテスト風景

 

↑未舗装路でのテスト風景

 

ドロップハンドルで林道を走行しても、悪路に手を取られること無く安定して進みます。Basic FRの元々の設計がロードバイクの乗り味をイメージして設計してあるだけあります。直線から茂みの中の荒れている場所での急旋回、さまざまな走行を行いましたが問題なしでした。

 

この「Basic FR」ベースの試作の経験を反映した試作フレームを設計・製作し、プロトタイプの完成車を製作しました。

↑プロトタイプの自転車

 

今では、”グラベル・ロードバイク”や”ロード・プラス”という言葉が一般的ですが、開発当初はそのようなジャンルは存在していない時代。「試作フレームを設計・製作し」と文章にすれば一言ですが、思考錯誤を繰り返しでした。「時間を愉しむための自転車が次の時代に必要だ」という信念だけでなんとか作り出した1台です。

 

「Basic FR」をベースにしていた為(「Basic FR」はマウンテンバイク)、ロードコンポーネントでも付くもの・付かないものがあったりと制約がありました。この「山と旅の自転車」はドロップハンドルとSTIレバーを前提としていたので、ロードコンポーネントでアッセンブルする必要がありました。求める乗り味を実現するため、対応するパーツを探し、試し、選択し、この時に製作できるベストなものが完成したのです。

 

もちろん、プロトタイプの自転車が完成すれば、乗り心地と性能を確認しました。短時間だけではなく、ビゴーレの昔からのお客様で以前から正確なインプレッションを下さる、経験豊富なTさんに長距離のテスト走行をお願いしました

↑ビゴーレでのテスト走行(写真はチーフメカニックの林)

 

↑Tさんによる、林道を加えた長距離走行

 

長距離テスト走行を終え、残りの課題であった長期旅用の積載についての検討を設計に加えて、ついに製品化を行いました。

当時はそのジャンルもない自転車。プロトタイプ製作中になんの自転車?というスタッフからの問いかけで出た「山と旅」という片岡の言葉。名前のなかった自転車は「山と旅の自転車」と命名されたのです。

 

2014年春 初代「山と旅の自転車」が完成し、60台限定の販売を開始しました。

初代「山と旅の自転車」の販売開始と同時に、すでに片岡の頭の中では、進化させたイメージを広げつつありました。

 

第二弾の「新・山と旅の自転車」、現行モデル第三弾の「山と旅の自転車プラス」へと繫がります。ここからのお話しは次回第3話でお楽しみください。